日本の家屋に住みつくアブラコウモリ(イエコウモリ)は益獣でもあり、害獣でもあります。益獣になるか害獣になるのかは「コウモリの活動場所」によって変わります。
屋外にいるときにはゴキブリのような害虫を食べてくれて益獣となりますが、屋内では害獣へと変化します。
アブラコウモリは1センチメートルの隙間があれば屋内に侵入することができ、民家の屋根裏や戸袋のなかで暮らしています。しかし、人間に悪影響を及ぼす雑菌・病原菌をたくさん持っているという大きな問題点があります。
コウモリは益獣でもあるうえ、駆除には法律が絡んでくるため、対処には注意が必要です。そこでこの記事では、そんな適切な距離を保つのが難しいコウモリとの上手な付き合い方についてご説明します。
「家にコウモリが住んでいるらしいけど、どう対処したらよいかわからない」「コウモリは益獣だと聞いたが、追い払ってしまって問題はないのか?」そんな疑問や不安をかんたんに解決します。
コウモリが益獣とされる理由とは?
コウモリが益獣とされる理由は、その食生活にあります。西洋のドラキュラ伝説の影響で吸血鬼のイメージも強い動物ですが、日本の都市部に暮らすアブラコウモリは意外にも、私たち人間に恩恵をもたらしてくれているのです。
虫がご馳走!コウモリの食性
日本の都市部に住むアブラコウモリは虫を食べて生活しています。夏の夜、街灯の周りを飛び回るコウモリを見たことがある方も多いと思いますが、あれは街灯の光に集まってきた小さな虫を、コウモリが食べているのです。
コウモリが一晩で食べる虫の数はおよそ500匹といわれます。蚊や蛾などの小さな虫を食べることから、昔は「蚊喰い鳥」などの別名でも呼ばれていました。
現在でも、農家にとっての害虫を食べてくれるなど、私たち人間へ恩恵を与えてくれる面もあるといわれます。ゴキブリを食べることもあるなど、人間にとっての害虫を減らしてくれている動物なのです。
ヴァンパイアのイメージが強く、コウモリは血を吸うものと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、吸血コウモリ(チスイコウモリ)はコウモリの仲間のなかでもごく少数で、南米にのみ生息しています。
日本のコウモリは人間の血を吸うこともなく、人間にとっての害虫を食べてくれるので、人間にも少なからず恩恵を与えてくれる動物といえるのです。
縁起がよいとされてきたコウモリ
コウモリは古来縁起がよい動物とされてきました。具体的には以下のとおりです。
- コウモリは漢字で「蝙蝠」と書き、中国語では「蝠」の読みが「福」と同じ音
- 五匹のコウモリを描いた「五福」の図は、「長生き、富貴、健康、子孫、繁栄」の象徴
この由来の起源は中国にあり、明治時代中期ごろまで、日本には多くの中国人が訪れていたといわれます。日本でもコウモリが縁起のよい「幸福の象徴」とされ、中国の思想が反映されているのには、そのような文化的背景も影響しているようです。
先に述べたように、コウモリは人間にとっての害虫を食べてくれる益獣です。しかし、コウモリが人間にとって「幸福をもたらす」という言説については、あくまで迷信だということができます。
コウモリは鳥獣保護法で守られている
コウモリは鳥獣保護法という法律で守られています。鳥獣保護法は、狩猟の対象として扱われる鳥や獣の種類を限定して、生き物の多様性を守ることを目的とした法律です。
鳥獣保護法で守られている動物は、捕獲や殺傷、許可のない飼育、巣や卵の破壊なども固く禁じられています。この法律意に反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金の刑に処せられます。
コウモリは人間に利益をもたらすうえ、法律でも守られている動物なのです。
本当にコウモリは益獣?屋根裏の実態
コウモリは人間にとって利益をもたらしてくれる益獣です。しかしその一方で、人間に対して多大な害を与える一面も持っています。
ここからは、屋外ではなく屋内のコウモリに焦点を当てて、具体的にどのような生活を送っているのか見てみましょう。
屋外では益獣として力を発揮するコウモリが、人間の民家のなかではどのような存在に転じるのか、知ったらきっと悠長な気持ちではいられなくなることでしょう。
コウモリが住む屋根裏のリアル
コウモリが住みついている屋根裏は、コウモリの糞尿によって汚染されます。コウモリは大量の糞をするうえ、多いときには100匹以上の群れで集団生活をする場合もあります。コウモリの糞はどんどんと堆積していくため、次のような被害が出る場合があります。
- 堆積した糞が建材に染み込み建物が腐敗する
- 悪臭が発生する
- 害虫、害獣を呼ぶ
- 健康被害をもたらす
次の項目では、コウモリの糞が原因で集まる害虫、害獣について詳しく紹介します。
コウモリはダニ、ゴキブリ、ネズミを呼ぶ
コウモリの糞や死骸は害虫・害獣を呼び寄せることがあります。
屋根裏、天井裏にコウモリが住みついている場合、コウモリの糞を餌とするダニやゴキブリが発生しやすくなります。また、コウモリの死骸を餌とするねずみなどを呼ぶ原因にもなります。
ダニ・ゴキブリ・ネズミの発生は、コウモリの糞害に加えて、さらに別の衛生問題が発生する原因です。ダニは人間の皮膚を噛んで吸血し、ゴキブリやネズミは伝染病を運びます。また、ネズミは深夜に活発になるため、騒音による睡眠障害を引き起こすこともあります。
コウモリに住みつかれたことを発端に、さまざまな被害が起こる危険があるのです。
屋根裏で次々に繁殖しつづける
家に住みついたコウモリをずっと放っておくと、年々繁殖を続けることがあります。コウモリは冬眠をして越冬する動物で、巣には家族単位で暮らしています。
夏に母コウモリが3匹ほど子供を産み、前年産まれたコウモリが翌年に子供を産む……という流れを繰り返すと、数年放っておいただけでも、おびただしい数に増殖するおそれがあるのです。
コウモリが大量に屋根裏に住みついている場合は、糞の量も被害もひどくなるので、本格的な対処が必要になります。
コウモリを見つけたときの安全な対処
屋内に住んでいるコウモリは、益獣ではなく害獣の面が強いということがわかりました。ここからは、コウモリを見つけたときの安全な対処方法についてご説明します。
保護が必要なコウモリを見つけたときは……
コウモリの赤ちゃんや、弱って動けないコウモリを発見したときには、自治体への連絡と許可があれば、一時保護をすることができます。まずは素手で触らないようにすることが大切です。一刻も早く保護してあげたい気持ちを少し抑えて、両手にゴム手袋をはめて触りましょう。
コウモリはとても小さな動物で、たとえ大人のコウモリであっても体長は人間の親指ほどです。赤ちゃんコウモリかと思いきや、じつは大人のコウモリの場合もあります。
後ほど詳しくご説明しますが、コウモリは人間に深刻な健康被害をもたらす雑菌・病原菌をたくさん持っているので、家に連れ帰って一時保護をする際は十分な注意が必要です。
万が一健康被害が起こっても自己責任となりますので、それを了承のうえで保護するかどうか決断する必要があります。
- 赤ちゃんコウモリ・弱って動けないコウモリを発見したときの手順
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コウモリは鳥獣保護法で守られているため、継続して飼育することはできません。しかし、一時的な保護は認められているので、自宅に連れ帰って回復するまで面倒をみてあげることができます。
弱ったコウモリを家に連れ帰ったら、水と食べ物をあげましょう。水は小さなスポイトか、水を染み込ませたガーゼを使って与えます。
コウモリの主食は小さな虫なので、ペット用のミールワームを用意するか、小虫を捕獲してピンセットで与えます。あまり大きな虫だと食べられない場合があるので、食べづらそうな場合は小さくして与えるとよいでしょう。
室内のコウモリを追い出す方法
室内のコウモリを追い出す方法は、シチュエーションごとにおもに2種類あります。
- コウモリが部屋のなかに入ってきた場合
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窓を開け離して、コウモリが自然に去っていくのを待ちましょう。このとき、コウモリを無理に捕獲して傷つけたり殺したりすれば、鳥獣保護法違反となりますので、注意してください。
室内に入り込んだコウモリを追い出すのに、忌避スプレーや燻煙剤を使うこともできます。ただし、コウモリが嫌う強い匂いを発するものが多いので、しばらくは部屋に匂いが染みつくおそれがあります。そのため、「部屋がどんな匂いになっても気にならない」という方だけのご使用をおすすめします。
- コウモリが屋根裏・天井へ入ってきた場合
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コウモリが住みついている屋根裏・天井はとても不衛生ですので、手袋、マスク、帽子、ゴーグルなどを付け、よごれてもよい長袖長ズボンの服装で作業をおこないましょう。
コウモリが屋根裏、天井へ入ってきた場合は、忌避スプレーや燻煙剤を使いましょう。狭い場所には忌避スプレー、広い場所には燻煙剤と、使い分けるのがおすすめです。
忌避スプレーは肌に付けたり目や口に入ったりすると炎症を起こすおそれもあるので注意が必要です。また、燻煙剤を使用する際は火災報知器が作動することがあるため、注意深く使用しましょう。
追い出しが終わったら、コウモリが浸入できそうな小さな隙間まで、しっかり塞いでおきます。
コウモリには危険な菌が!消毒する手順
コウモリは人間にとって脅威となるさまざまな病原菌や寄生虫を持っています。そのため、コウモリの寝床となった場所を掃除する際には、細心の注意を払わなければいけません。
- マスク、手袋、ゴーグル、帽子、長袖長ズボンの服装で防護する
- 堆積している糞を処分する
- 消毒用のエタノールや、次亜塩素酸ナトリウムなどを使い、除菌する
- 使用した道具を袋に入れて口をしっかり縛り、破棄する
除菌剤は高所に塗るのは難しいので、上手く濡れないようであれば、コウモリ駆除をしてくれる業者に依頼するようにしましょう。もしもコウモリの糞に素手で触れてしまった場合はすぐに手をよく洗い、消毒液を塗ります。
じつは、コウモリと人間の遺伝子はとても近い構造をしています。そのため、コウモリが持つ病原菌が人間に移って発症するおそれが指摘されています。動物から人間へ移る病気「人獣共通感染症(ズーノーシス)」が起こるおそれがあるのです。
- 日本のコウモリが持っているかもしれない主な病原菌・寄生虫
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- 狂犬病ウイルス
- コウモリマルヒメダニ
- 国外のコウモリが持っている病原菌・寄生虫
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- ニパウイルス
- SARSコロナウイルス
- エボラウイルス
- アルボウイルス
- ハンタウイルス
- リッサウイルス
- ヘンドラウイルス
国外でコウモリから人へ感染した病気には、命に関わる大病も多くあります。また、日本のコウモリであっても、糞に発生したカビを吸い込むことでヒストプラズマ症になったり、ダニによってアレルギー反応が出たりするおそれがあります。
コウモリが持つ病原菌や寄生虫を甘くみていると深刻な健康被害につながりかねません。コウモリが家に住みついたら、できるだけ早く対策しましょう。
屋根裏のコウモリはどうすればいいの?
最後に、屋根裏にコウモリが住みついている場合はどうしたらよいのかを解説します。屋根裏にコウモリがいる気配がするという方は、今ご自分でできる最善策を知りましょう。
自分で追い出す方法、プロに依頼して追い出してもらう方法、それぞれについて紹介しますので、お悩みの方は参考にしてください。
屋根裏のコウモリを追い出す方法
屋根裏に住みついているコウモリを追い出すためには、次の手順を使います。
- コウモリが巣から出ていったのを確認して、燻煙剤を使う
- 糞をしっかり掃除する
- コウモリの侵入経路となる隙間をしっかり埋める
家に居ついたコウモリを追い出すには、真夏と冬を除いた4~6月、9~10月が最適です。コウモリは真夏には子育てで活発になり冬には冬眠するので、このふたつの時期は追い出し効果に期待できないからです。
また、コウモリがエサを求めて巣から出ていく時間帯を利用して、夕方に追い出しをおこないましょう。
燻煙剤は、コウモリの巣がある場所の大きさによって、使用量を変える必要があります。コウモリはネズミ同様ハッカやトウガラシの香りが大嫌いなので、ネズミ用燻煙剤も効果があるといわれます。
こんな場合はプロの手を借りるべし
「自分で追い出したいけど、できない……」そのような場合もあります。たとえば、以下のような状況がそれに当てはまるでしょう。
- 屋根裏に上がれない(もしくは上がりたくない)
- 不潔な環境が苦手
- 虫が苦手
- コウモリが入り込みやすい隙間がわからない、見つけられない
- 自分で隙間を完璧に塞ぐ自信がない
上の項目に当てはまる人は、業者への依頼を検討しましょう。業者に頼まず自分だけで作業する場合、上記のことをすべて自力でやり遂げなくてはならないためです。
プロの駆除業者をうまく活用するには
コウモリ駆除をプロの業者に依頼するなら、早めに利用しましょう。コウモリは放置すればするほど数と糞の量が増え、騒音被害も大きくなり、建物の汚染も進んでしまうからです。
また、コウモリは法律で守られた動物のため、一般の方は決定的な駆除をおこなうことができないというハンディキャップもあります。家にコウモリが潜んでいるかもしれないと思ったら、コウモリが出産をおこない個体数が増える初夏よりも前に、依頼する業者を検討しましょう。
インターネットの口コミや、業者が請け負った具体的な施工事例などを参考にしながら、信頼できると感じる業者の候補を数社絞りましょう。候補の業者のなかで見積りをとって見比べ、いちばんよいと感じる業者に依頼すると、業者選びの失敗を防ぐことができます。
「どのように作業するのか」「閉所や高所でもしっかり作業してくれるのか」「確実に隙間を塞いでくれるのか」など、気になるところは徹底的に質問をすることが大切です。もしも返答があいまいだったり、対応が粗雑だったりした場合は、業者の候補から外して、よい業者を探しましょう。
まとめ
コウモリは益獣でもあり、害獣でもある動物です。コウモリが人間の住宅に住みついた場合には、建物の汚染や健康被害など、人間に大きな被害をもたらす害獣としてみなされます。
もしもご自宅にコウモリが住みついている気配があったら、なるべく早く業者に相談しましょう。コウモリは一般の人にはしっかりと駆除しづらい動物です。プロの業者と知識を存分に利用して、しっかりコウモリを駆除し、被害の再発防止を徹底しましょう。